10 イタリアのワイン法と優良造り手の確執
「なぜ、スーパー・ヴィノ・ダ・ターボラが流行した?」
最近、イタリアの素晴らしいワインが流行です。 もうご存知の方も多いかもしれませんが、その多くはイタリア・ワイン法で最下位のヴィノ・ダ・ターボラ、若しくはその一つ上のI.G.T.にランクされています。
通常イタリアの高級ワインは、法律でD.O.C.とD.O.C.G.と決められています。ところが、今回のワインを含め、日本での価格が\5,000〜\10,000のものに最近はわざとヴィノ・ダ・ターボラとして生産する例が多く見られます。
そもそもこれらのワインは、ワイン法に縛られてよりよいワインが造れなくなることを良しとしない、優れた生産家達の改革から始まったことです。
その最初とされているのが、今回入荷した「サッシカイア」です。 トスカーナ州の地中海側に位置する、ボルゲリの畑では以前からボルドー地方のカベルネ・ソービニヨン種が大変よく育つ土壌でした。
しかし、ヨーロッパのワイン法はその土地に歴史的に由来するぶどうの使用を守ることが基本となっているために、その当時の通常の考えではトスカーナにカベルネを植えてワインを造ることは許されることではありませんでした。 そこでサングイドでは、単純に自家消費用にカベルネとフランス製小樽で熟成したワインを造っていました。 1968年、その素晴らしい出来に思
い切ってワイン法で最下位のヴィノ・ダ・ターボラとして「サッシカイア」を市場に登場させたのです。
このワインはやがて、「トスカーナの奇跡」として世界のワイン専門家達を驚かせるものとなったのです。
また、同じトスカーナのキャンティでは大手の生産者を保護するために赤ワインの質にとっては悪くなる白ぶどうの混醸を義務づける、という悪法がまかり通っていました。 世界に名の通ったキャンティワインを安く大量に生産するために上質のサンジョヴェーゼを過生産するだけでなく、より安価な白ぶどうを混ぜて、まるで薄めて伸ばすような方法を法律で定めていたの
です。
キャンティのワインの印象として薄くて酸っぱいワイン、という印象しかないとしたらおそらくそんなワインを飲まされてしまったからだと思います。
どうもイタリアのワイン法の中には、本来あるべき伝統的な品質重視の考えよりも既存生産家の目先の利益を重視しすぎた悪い部分があるようです。
そこで、ワインの品質重視を優先する貴重な生産家達は反旗を翻し始めたのです。
静かな反抗は、フォントーディが行いました。彼のところでは、当時禁止されていたサンジョヴェーゼ100%によるキャンティ・クラシコを表だってはそのことを言わずに造り続けたのです。
また、50&50(チンクエンタ・エ・チンクエンタ)で有名なカッパネロは、キャンティ協会の行動に我慢が出来ずにとうとう脱退、という形になってしまいました。 彼のところでは現在D.O.C.やD.O.C.G.のワインは造っていません。
トスカーナ州だけではなく、ヴェネト州でも先日から紹介している、素晴らしいソアヴェ・クラシコ 「カピテル・クロチェ」の生産家、アンセルミの反骨心が話題になりました。 彼は1本の樹から1ケースものワインを造ることが許されている法律に我慢が出来ず、昨年ついにソアヴェ協会から脱退してしまいました。 彼のワインは1本の樹から1本以下(10房以下程度)のワインしか生産していません。それだけ凝縮した素晴らしいワインが出来るのです。
その結果、アンセルミは1998年以降のビンテージからソアヴェを名乗れなくなってしまいました。 しかし、彼の優秀なワインを知る世界中の多くの愛好家が彼を支えることになるでしょう。
そんなことで、イタリアの優秀な造り手がワイン法にとらわれない素晴らしいワインを造る情熱から様々なワインが造られましたが、1996年ついにキャンティではワイン法が改正されてサンジョヴェーゼ100%でもキャンティ・クラシコを名乗れることがようやく法律で規定されたのでした。
ただ、現在では逆に世界的なスーパー・トスカーナの流行から、ドコもカシコもワイン法を無視して、伝統的な品種を使わずにフランス産の新樽熟成をしたワインを造って売ることが流行になってしまい、多少行き過ぎの感もあるように思えます。
伝統的なイタリア・ワインの素晴らしいスタイルとモダンなスタイルが良い意味での競争をして僕たちを楽しませてくれることを願って止みません。