
その3 「養老の赤ワイン」-イタリアワイン・マニアのお地蔵様- 【原作:養老の滝伝説について】 昔々、三浦半島の山奥の村に、木こりの源三ジイサンと孝行な孫が住んでおりました。 去年の秋、ワイン大好きの源三ジイサンは、ボージョレ・ヌーボーの解禁日に、三本も一気飲みをしたのでした。 それ以来、オジイサンは寝たきりの毎日で、木に登ることができません。 今日は源三ジイサンの六十八歳の誕生日。せめて、晩酌にチリ・ワインでも飲ませてあげたい。でも、今日は仕事がほとんどなく、一文銭を三枚しかもらえませんでした。情けない思いをしながら、月明かりの道を歩き、家に向かいました。 いつものように、岩清水がチロチロ流れている隣りのお地蔵様に手を合わせました。早くオジイサンが良くなるようお願いして、立ち上がったときでした。懐から一文銭が転がり、岩清水に落ちてしまいました。慌てて拾おうとしてビックリ。岩清水が真っ赤になっているのですから。
一口飲むと、カシスとチェリーの香りが口一杯に広がります。
庄太は、もう一度手を合わせてお礼を言い、立ち上がったときでした。また、一文銭がコロコロ転げ、岩清水に落ちました。
その瞬間、庄太は、流れ出ている赤ワインの色が濃くなったような気がしました。おやっと思って、赤ワインを手ですくい、口に入れて、またビックリ。
庄太は、狂喜して、水筒代わりの竹筒に赤ワインを入れました。満タンにして栓をすると、お地蔵様にもう一度お礼を言いました。 立ち上がりかけたとき、読者の予想通り、最後の一文銭が転がり出て、清水に落ちました。
今度は、ほとんど黒に近い赤ワインが流れ出てくるではありませんか。一口飲んだ庄太は唖然としました。
「もっとお金があれば、もっといいワインが流れてくるんだろうなぁ。でも、バローロで十分だ。ありがたい、ありがたい」 家の戸を開けようとしたとき、隣りから欲兵衛さんが出てきました。 「庄太のやつ、酒臭いし、妙に嬉しそうだ。何か訳があるに違いない」
バルタン星人笑いをした欲兵衛さんは、翌朝、まだ星が出ているうちに天秤棒で大きな甕を二つぶら下げ、懐に一両小判を入れて、岩清水に向かいました。早速、お地蔵様の前に膝まづき、一生懸命、お祈りを始めました。 「何と言うすっきりしたウマさ。軽やかでフルーティーな飲み口(*5)は、まさしくロマネ・コンティに違いない」 「ワシがイタリア物しか飲まんのを知らんと見える。それに、あのワインは、ラクリマ・クリスティじゃ。それと、ロマネ・コンティと間違うようでは、何を飲ませても同じ。ありがたく一両、もらっておくとしよう」 了 |
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| 今回の特別な1本 | ||||||
| 作者脚注 | ||||||
| * 1:ラクリマ・クリスティ・デル・ヴェズーヴィオ ナポリの近く、イタリア半島を脚に見立てると、向うずね周辺で生産する日常消費用ワイン。赤、白の両方ある。ヴェスヴィオ火山が噴火し、被害に遭った住民を哀れに思ったキリストが涙を流した跡にブドウが生え、ワインを作ったという因縁話がある。 「エスト! エスト!! エスト!!! ディ・モンテフィアスコーネ」と同様、長い名前、大袈裟な由来話、派手なラベルと三拍子揃ったフツーのワイン。(店主追記:当店のラクリマ・クリスティは飲む価値あり!です) *
2:マキャベリのキアンティ・クラッシコ・リゼルバ *
3:アンジェロ・ガイヤのバローロ・スペルス
* 4:相田みつを
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作者 葉山 考太郎(はやま こうたろう)
湘南地区在住といわれる謎のワインライター。 |