
第5回 南イタリアへの郷愁が薫る・・・、ワイン生産者としてのフランシス・コッポラ
ビジネスで成功を収めたエグゼクティブが、その成功の証としてワイナリーを創設・買収する・・・。アメリカのIT長者たちが一時こぞって、カリフォルニアにワイナリーを持ちましたが、その先駆けといえる存在が、『ゴッド・ファーザー』で有名な映画監督のフランシス・フォード・コッポラです。
もう既に有名な話かもしれませんが、コッポラは、1975年にカリフォルニアのナパ・ヴァレーにあるニーバム・エステートの一部を購入し、生産者としての第一歩を踏み出しました。有名なオーパス・ワンの向かい側にあるナパ・ヴァレー、オークヴィル村最上の場所です。以来カリフォルニア・ワインの歴史に敬意を払いながら、しっかりとしたワインを造り続けています。その間『地獄の黙示録』がカンヌ映画祭でグランプリを受賞しながらも、制作費をかけすぎて破産してしまうなど、波瀾万丈の人生を歩んでいるコッポラですが、ワイナリー経営に関しては手放すどころではなく、1995年にニーバム・エステートを完全に買収、なおも周囲に所有畑を拡張し続けています。2006年にはソノマのアレキサンダー・ヴァレーに第二のワイナリー「ロッソ&ビアンコ」を創設するなど、着実に成長を続けています。 コッポラが造るワインの品質は優れていて、また高品質ワイナリーとしては規模も大きくラインナップも豊富で、趣味的に少しだけ造っているブティック・ワイナリーとも、もちろん工業生産的に大量生産する低品質ワイナリーとも全く違う存在です。
ナパ・ヴァレーのコッポラ・ワイナリーを訪れるとクラシックで瀟洒な館の中は、古き良き時代の趣ある室内装飾に、映画『タッカー』で使用されたクラシック・カーなどが展示され、コッポラ映画博物館のように楽しめるワイナリーとなっています。 実はコッポラ自身もワイナリーにいることが多いらしく、私の友人でもナパ・ヴァレーのワイナリー巡りをしているときに、コッポラ・ワイナリーで偶然コッポラ本人に遭遇し、サインをもらったという人がいます。まことしやかに流れる噂として、「コッポラは、映画を褒められるよりも、ワインを褒められた方が素直に喜ぶ」というジョークじみた話もあるほどです。
コッポラのワインに対する執着にも近い愛着心は、イタリアの血を引くコッポラが抱く郷愁・・・、それは出世作である『ゴッド・ファーザー』の隅々から漂う、イタリア系アメリカ人である彼が意識しているであろう、「血と肉となる食に対するアイデンティティーへの郷愁」からくるものではないか、と感じられてなりません。
それは、コッポラのワインが通常のスタンダードであるボルドー・スタイルのワイン、つまりカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローといった国際品種を使う一般的なものも堂々としていて立派なのですが、ジンファンデルという品種に特別に力を入れていることからも伺われます。
ジンファンデルは、禁酒法以前から植えられていた、カリフォルニア独自の品種として親しまれています。実は、この品種の原種とも兄弟ともされているのが、プーリア州など南イタリアで広く栽培されている、プリミティーヴォ種なのです。決して高級ワインにはなりませんが、いかにも南イタリア土着的な荒々しく濃い果実を感じさせる、ワイルドな力強さが魅力です。このプリミティーヴォとジンファンデルには似かよった風味があるために、以前から共通性が話題となっていましたが、近年DNA検査により、同じ遺伝子を持つ品種であることが確認されました。 南イタリアからの移民たちによってプリミティーヴォの苗がカリフォルニアに持ち込まれ、それが現在ジンファンデルとなって深く根を張らして受け継がれている、という説が現在最も有力となっています。
これはまさにコッポラの祖先、そして『ゴッド・ファーザー』のドン・コルレオーネに重なる姿でありましょう。このジンファンデルがもつ独特の風味に、コッポラのワインは「イタリア系民族としての郷愁」というエッセンスが加わっているのです。イタリア人にとって毎日のワインが欠かせないように、イタリアから移住してきた人たちにとっても、ワインを味わうことが、民族として忘れたくない必要な日常であると共に、故郷への想いをワインの香りから感じているのでしょう。第二のワイナリーがあるソノマこそが、ジンファンデルの銘醸地であることからも、その愛着が特に大きく感じられます。
コッポラ・ファミリーは最初イタリアから、ニューヨークに腰を落ち着けたそうです。フランシスの祖父であるアゴスティーノ・コッポラは、ニューヨークの自宅地下にコンクリート発酵槽を設置して、一族や近隣の友人のために自家消費用のワインを造っていました。そんなお祖父さんの姿を見て育ったフランシスも、ワインに郷愁を感じると共に、映画を作ることと同じように、畑を持ってワインを造ることを夢見ていたことが、想像できるのです。
コッポラのワインは、最高級グレードだけではなくデイリー・ワインから、ミドル・レンジまで幅広く揃っています。このことは、「ワインは特別な存在ではなく、様々なシチュエーションの食事に幅広く一緒に楽しめるもの」という、祖父から続くフランシス・コッポラのメッセージのように思えます。基本的には、円やかなタッチの中に果実感が豊かで、力強い構成のあるスタイルとなっています。『ゴッド・ファーザー』にちなんで、お父様へのプレゼントにも最適です。 また、これも既にアカデミー賞受賞監督となった愛娘ソフィアの名前を冠したスパークリング・ワインとロゼ・ワインの『ソフィア』も、興味深いラインナップです。
内池 直人 |