ワインは語りかける

第14回 イタリアで注目される、新しいシチリアワインの魅力

麗しの国、シチリア 

 

 

 

夏休みに、もしたっぷりと時間があればシチリアでのんびり過ごしたい、という方も多いのではないでしょうか。

いわずと知れた多彩な都市国家であるイタリア。北イタリアの人たちにしてみれば、シチリアは同じ国というより「むしろアフリカ」と語られるほど、イタリア南北は文化的にも異なっていて、本当に面白いところです。 そのシチリアといえば、『ニューシネマ・パラダイス』や『グラン・ブルー』などでも印象に深く残る、地中海の青い海と燦々と降り注ぐ太陽の島。「一週間滞在すれば、3キロ太る」といわれる美味しい料理と共に、とても魅力溢れる場所であることはあらためて述べるまでもありません。ただシチリアでは、高級ワインに関しては、1990年頃まではあまり縁のないところでした。

 

先日、銀座で専門家を集めた小さなワイン勉強会がありました。今回のテーマは、「注目されつつあるシチリアのワインについて」でした。

 

 実は2000年以降最も魅力が増したワイン生産地が、このシチリアということで、最近とても注目度が高まっています。一般的に南イタリアは、暑い太陽の下、とても完熟度の高い果実感一杯のワインがたくさん出来ます。この地に住む人たちの人柄同様に、気軽でガブガブ飲める気軽さが南イタリアワインの魅力ですが、高級ワインは、ある程度冷涼な気候で厳しく育つことによって、複雑さが醸し出されるので、一般に南イタリアのシンプルなワインは庶民のワインとされてきました。

 

 シチリアも最近まではがぶ飲みの安酒かブランデーを添加したマルサラ酒のような酒精強化ワインで有名でしたが、じつは多彩な地形が幸いし、高級ワインを造るためのポテンシャルを充分に備えた場所であることが1990年代以降にわかって、意欲的な生産家が次々と誕生したのでした。彼等を支えたのは、はからずも世界最先端の醸造技術を習得した北イタリア、ピエモンテのエノロゴ(醸造コンサルタント)たちでした。 エノロゴ達は、ひとつの島の中に、平坦な土地や斜面の土地、標高の高い場所、低い場所等の多様性があり、古くから伝わる地元品種の個性も多彩であることと、シャルドネなど国際的な品種も独自の個性を出す幅広い可能性を確信したのです。

 

 90年代のシチリアで最初に成功したワイナリーは、プラネタでしょう。いかにもシチリアらしい太陽の顔が描かれたモダンなデザインのラベルは、すでに日本でもイタリアを代表する有名銘柄のひとつになりました。このオーナー一族はシチリアで300年以上のブドウ栽培の伝統を持つ銘家ですが、島の西部に広がる畑に国際品種のシャルドネを植栽しました。最上級のフレンチオーク樽で発酵熟成させワインを造り、南を感じさせるとてもリッチな深みのある味わいでありながら、洗練された気品も併せ持つ大変に優れたシャルドネ・ワインを1994年に初リリースし、瞬く間に世界の注目を浴びることになりました。シチリアに高級ワインがあることを認識させた貢献は、大きいと思います。

 

 

最近特に注目されるシチリアの優れたポテンシャルは、エトナ山を始めとした、北部の標高の高い斜面から造られるワインに顕著に表れています。ここは標高が高いだけではなく、強い風が吹くことから、北部の冷涼な気候にしか生まれないような繊細なニュアンスを持つ味わいが醸成されることになりました。先日の専門家を集めた試飲会では、最初ブラインドでアルプスの麓にあるイタリア最北部アルト・アディジェ州のピノ・ノワールとシチリアの地元品種で高い標高から生まれたワインを比較したのですが、出席者のほとんどの専門家が同じ地区で造られた生産者違いのワイン、と答えるほどでした。それは、ただ単に冷涼というだけではなく、北部ワインにも通じる洗練された味わいが、シチリアワインにも備わってきていることの証でもあります。

シチリアの山岳地帯のワインにとって、運が良かったことは、地元品種、特に赤ワインとなるネレッロ・マスカレーゼという品種が洗練されていて、しかも100年近い高年齢の樹が無造作にたくさん植えられていたことでした。

 

 昨年イタリアで話題を独占したのは、ガンベロ・ロッソというイタリアのワイン年間評価本2008年版において、その年に最高の評価を得た赤ワインが、数万円するバローロでも、スーパートスカ−ナでもなく、シチリア北部山岳地帯の急斜面で生まれる2005年産の『ファロ』(生産者パラーリ)という日本で買っても7千円台のワインだったということでした。これも、標高400メートルほどの高地にある畑で、なんと傾斜が40度から70度という急峻な斜面に植えられた高樹齢のネレッロ・マスカレーゼ種を主体として造られています。こんな急斜面だと、収穫はもちろん畑仕事も命がけといって過言ではありません・・・が、気楽なシチリア人のこと、厳しい農作業ものんびり楽しくこなしているのでしょう。

 この『ファロ』は、とても繊細で上品なのですが、なぜかとても口当たりが優しく、気難しさが全く感じられません。友人にきくと、このオーナーであるジェラーチ氏はとても上品な紳士だけれども、人当たりが柔らかく、すごくフレンドリーな良い人だそうです。まさに、そんな性格がワインに表れているようで、飲んでいて楽しくなるような味わいです。アメリカの評論家や雑誌が100点満点の評価をつけると、いきなり価格が数倍になったり、買い占められたりしてしまうのですが、イタリアの評価本で地元のワインの評価が高まっても、専門家に認められるだけで、市場価格が極端に変わらないのが消費者にとってとても嬉しいところです。

 

 面白いことに、高級ワインが造られるようになると、シチリアの庶民的なワインも洗練されてきました。フェラ−リ用のエンジンオイルを作っていたヴィート・カターニア氏は、シチリア南部にグルフィというワイナリーを創設し、ネロ・ダーヴォラという地元品種を使って軽快な赤ワインを造っています。北部メッシーナで3代に渡りワインを造ってきたコローシも最近設備を一新してネロ・ダーヴォラからとても凝縮感のありながらデイリーに楽しめるモダンな味わいのワインを生みだしています。

これらのデイリーワインも地元品種の個性を大切にしながら、今までの単なる安ワインではない、しっかりとした品質を保って気軽に日常で楽しめるレベルになってきたのです。

 

 

 

 

 

 

                                         内池 直人