ワインは語りかける

第19回 『クリュ・ブルジョワが正式復活?』  

それでも懲りずに格付けを定めるフランス人気質

シャススプリーン

2003年最上級格付けとなったCH シャス・スプリーン
(ブルジョワ級の城郭の中では立派な部類) 

 

 

  2010年のボルドーにおいてもっとも大きなニュースとなりそうなのが、ボルドーのメドック地区「クリュ・ブルジョワの法的な格付け復活が正式に認められる」という動きです。

メドック・クリュ・ブルジョワ連盟(Allience des crus Bourgeios du Medoc)による様々な努力の結果、昨年末に正式な法令が発布され、この2010年中に2008年ビンテージのワインから、正式格付けが復活する見込みとなりました・・・。

 

 ミシュラン・ガイドを毎年発行する国フランス。小学校の徒競走にも順位をつけたがらない横並び平等主義の私たち日本人からみると、リアリティーのないことですが、ワイン生産者、業者、そして消費者もまきこみ、ワインに格付けをすること、とりわけボルドー・メドック地区の格付けはフランス人にとって、執念の作業のようです。このブルジョワ級格付けを巡る動きは、およそ100年間に渡る紆余曲折の歴史となっています。

 

 そもそも1500近く存在する、といわれるメドック地区のシャトーの中で、格付けが行われたのは1855年パリ万国博覧会のこと。ボルドーの頂点に君臨する、かの有名なシャトー・ラフィット、シャトー・マルゴー、シャトー・ラトゥール、そしてシャトー・オーブリオンの四大シャトーは、この時に5段階に格付けされたグラン・クリュ(特級)61シャトーのなかでも、第1級に格付けされました。(その後シャトー・ムートンのみ唯一の例外として1973年に2級から1級に格上げされました)ボルドーの蘊蓄を学ぶ時に、最初に覚えることの一つです。この格付けは、ボルドー商工会議所が当時の流通価格から格付けしたにすぎないものでしたが、その後今日に至るまで特級61シャトーは、市場において神聖にして侵しべからざるような絶対的な地位を与えられています。

 

 この絶対的な地位に対して、グラン・クリュに格付けされなかった有力シャトーたちは、「クリュ・ブルジョワ(ブルジョワ級)」と名乗り始めました。この動きは次第に大きくなり、1932年に独自の格付けが行われました。ボルドー商工会議所とジロンド農業会議所の管轄のもと、444 のシャトーを、「クリュ・ブルジョワ」として認定したのです。この時すでに3段階に格付けされていました。その後戦争などにより一時シャトー数は激減しますが、1962年にクリュ・ブルジョワ組合が創設され、1966年、78年、と格付けの見直しが行われました。その後1985年〜1999年までは、毎年「ブルジョワ級カップ」という品評会を開催して、優勝、準優勝からベスト8まで発表していました。(組合の中での取り決めで法的なものではありませんでしたが。)味わいには格付けがある、といういかにもフランス的な考えは、シャトー同士の努力と競争力を高め、「ブルジョワの上位シャトーは、グランクリュ3級クラスに匹敵する」とも評価されることになりました。

 

 そんな中で、ブルジョワ級に正式な法的権限を持った格付けを制定しようという気運が高まり、2003年6月にボルドーで開催される世界ワイン博覧会(VINEXPO)において、公式格付けを発表することになりました。その準備段階として「ブルジョア級カップ」も休止となりました。

そして、満を持して発表されたのが2003年の公式格付けでした。これが様々な波紋を呼ぶこととなります。

審査は、テロワールの質、品種構成、栽培法、醸造法、葡萄畑の運営や全体の状態、瓶詰め条件、品質の安定度、シャトーの知名度、試飲によるワインの品質など全般にわたった厳しいものでした。1994年〜1999年ビンテージものが試飲審査され、その結果、2003年6月に農業省が新しい格付けを承認しました。500近い申請があったにもかかわらず、ブルジョワ級と認定されたのは、約半数の247シャトー。さらにこれが3段階に格付けされたものでした。

 最上位が9シャトー、中位が87シャトー、その他151シャトーという構成でしたが、当然上位にランクされるべきいくつかのシャトーが申請そのものを辞退をして格付けされなかったことは、残念なことでした。(彼らは、グランクリュ編入を望んでいました。)さらにこの結果を不満とするシャトーのオーナーたちは、訴訟を起こしてしまいます。そして、2007年2月裁判所はこの公式格付けを無効とする判決を下してしまうのです。

 

何とも冴えない結末ですが、それでもこれに懲りないブルジョワ級の人たちは、新たに公式格付けを行う運動を進めます。

無効の判決が下ったばかりの同じ2007年、メドック・クリュ・ブルジョワ連盟は、新たな、「Reconnaissance Cru Bourgeois(クリュ・ブルジョワ認証)」プロジェクトを開始したのです。農業と消費担当の省庁の助けを受け、連盟は「クリュ・ブルジョワ認証」を採択しました。「メドック地区のすべてのシャトーが参加することができ、仕様書(カイエ・ド・シャルジュ)に基いてクリュ(格付け)の選定を行うもので、第三者機関が、仕様書の基準が遵守されているかどうか検査を行なう。選ばれたシャトーは毎年、信任を受けた検査機関が管理し業界の専門家による審査団が実施するブラインド・テイスティングに、そのヴィンテージのワインを提出する。」(メドック・クリュ・ブルジョワ連盟 11/30付けプレスリリース)というものです。

 

 その新しい格付けは、まもなく発表されることになります。個人的にもとても楽しみなことです。・・・ですが、新格付けに対して、おそらくまた様々な反対意見や主張が繰り広げられ、今回も裁判沙汰になるかもしれません。

 

 「自由・平等・博愛」を標榜するフランスですが、彼らにとって「平等・博愛」は、味覚の絶対的価値観を定める格付けと相反するものではないのでしょう。100年にわたる騒動を外から眺めていると、彼らの間に低く格付けされたことに対する不満や主張はあっても、格付け(優劣)自体を否定することはないようです。日本にも清酒などで「金賞受賞新酒鑑評会」のような審査はありますが、醸造所自体を公式に格付けし権威を与える、というのとは次元が違います。もし私達の国で同じようなことが起こったら、裁判で否定された時点で格付け作業は中止されてしまうことでしょう。フランス人の、この格付けに対する止むことのない信念には、敬服感すらおぼえます。

 

様々な軋轢を生みながらも、このような格付けを重ねることによって名もない小さなシャトーが正当な評価を受けて国際市場で認められるチャンスを得ているのは確かな事実です。

 定期的な格付けの繰り返しによって、メドック地区のワインが品質を上げ、市場にわかりやすく認識を高めていることで、世界中の消費者への指標にもなっています。優劣に公正な評価を下すことは、生産者にとってもさらなる努力と品質向上につながっています。このことは、私たちが自国の製品、生産物をどのように広めていくかを考えていく上でも参考になるように思えます。

 

内池 直人